『食想う心』

 食という観点で見ると、私が生まれてからの70余年は、本当に激変したのではないかと思います。
 記憶をたどると当時の世のなかは、生きるために家族がひとつになって米や野菜をつくり、タンパク源を得るためにニワトリを育て、1個の卵を家族であ りがたく、おいしくいただく生活でした。天候によって収穫量も大きく変化するため、食べもののありがたさを常に感じていたものです。
 NHKの朝の連続ドラマ 『とと姉ちゃん』では、今では考えられないような生活をしながら、登場人物たちの頑張る姿が描かれていますが、私の記憶とも、どこか結びついているような思いで見ております。
 1964年、オリンピックが東京で開催され、世界中からいろいろな食べものが入り、電子レンジ、ハロゲンヒーター、IHヒーターなど、調理器具も便利になりました。和風・洋風・中華風と、調味料や油の使い方なども変わり、低タンパク・低脂肪・低カロリーだった日本人の食事は、高タンパク・高脂肪・高カロリーへと変わりました。
 インスタント食品やレトルト食品などもたくさん出回り、 一日24時間、食べることには何の心配もない生活になったものの、その簡単で便利な食生活が生活習慣病やアレルギーを生み、更には、キレる子どもや鶴の広がりなど、「心」の悩みにまでも現代の食生活が影響を及ぼしています。これらは戦後の日本の食生活の激変と、決して無関係ではないと感じております。
 食文化とは代々受け継ぎ、伝えていかなければならない、知恵が詰まった大切なもの。日本には世界に誇れる食文化があったはずです。
 料理教室を開講して50年。失われつつある「日本人らしさ」を改めて考えてみたいという想いで文章を綴りました。皆さまのこれからの暮らしと人生を、明るく、楽しくしていただくことに、本書が少しでもお役に立てば、とてもうれしく思います。

PAGE TOP